佐久間智子
私が「スピリチュアル」をやめた理由 〜人が心の傷を迂回するとき〜
2021/10/21配信
皆様、こんにちは。
病気の根本治療を25年間追求してきた結果、産婦人科医からトラウマセラピストに転身した医師、佐久間智子です。
突然ですが、すごく繊細な話題だと思われるので、なかなか書きにくかったことで、でもずっと書きたかったことについて、今日は書きたいと思います。
それは、ヒーリングとか、キリストや聖母マリアなどのアセンテッドマスターや、神に関することとか、悟りなどの、ニューエイジ的な、いわゆる「スピリチュアル」なことに関する活動です。
(*キリスト教や仏教などの古来からある宗教についてはここでは語るつもりはありません。宗教とスピリチュアルの境がどこにあるのかと言われると、難しいですが・・・)
元々の「spiritual」という単語の意味は、オンライン辞書Weblioによれば、「(肉体的・物質的と区別して)精神(上)の、精神的な、(物質界のことと区別して)霊的な、聖霊の、崇高な、気高い、宗教上の、教会の」だそうですが、そういう意味では、人間は物質的な存在であるけれども、同時に、肉体を超えたspiritualな存在だと、もちろん思っています。
私がやめたのは、自分の外にある目に見えない高次の存在に、悩みの答えを聞いたり救いを求めたり、それを規範として生きようとしたり、その力を借りて何かをする(ヒーリングなど)、などの積極的な活動です。
(「積極的」というのは、お墓参りとかご先祖様に手を合わせたりとかの日本の生活の中に自然に根付いていること以上の活動、という意味です。そういうことは普通にするので)
なぜなら、それらのスピリチュアルな活動による体験が、深淵で人智を超えているように感じられる、一見とても素晴らしいものであったり、癒された、と感じられることであっても、実際にはそれによって
「本当に傷ついた自分の一部を迂回(バイパス)している」
ことが多い、とわかったからです。
これは「スピリチュアル・バイパス」と呼ばれます。

スピリチュアル・バイパスとは、元々は心理学者のジョン・ウェルウッドという人が提唱したものだそうですが、英語版Wikipediaによると、
「スピリチュアルなアイデアや実践を使用して、未解決の感情的な問題、心理的な傷、および未完成の発達上の課題に直面することを回避または回避する傾向」
とあります。
そして私は、これは多くの「スピリチュアルな」メソッドで、とてもよく起こっていることだと思っています。
もちろん、精神的な迂回(バイパス)は、スピリチュアルな領域以外でも頻繁に起こっています。
私たちがしているほとんどの活動は感情調節のためだ、と言われているくらいですが、私たち(のパーツ)は、心の痛みを感じないようにするために、いろいろなことをします。
延々とYoutubeを見る、ネットサーフィンをする、仕事しすぎる、運動しすぎる、お酒を飲む、甘いものを食べる、過食する、買い物しまくる、リストカットする、鬱になる、病気になる、etc・・・。
これらは、心の傷を感じないようにするため、気を逸らすための、無意識での活動であることがよくあります。
そういう活動の一つに、「スピリチュアルな活動」というのが、かなりある、と言われているわけです。
私は、病気の根本治療を探求するという職業上の目的と、同時に、自分の人生を変えたい、という思いから、40歳くらいからスピリチュアルなものを学び始め、いくつかの変遷を経ながら、トラウマセラピーの一種でもある内的家族システム(IFS)にたどりつきました。
私の経験からすると、IFSを知る前に私が良いと思ってやっていた「スピリチュアル」なメソッドは、ほとんど全て、この「スピリチュアル・バイパス」の上に成り立っているものでした。
もちろん、それらは間違いなく、私の人生の役に立ってきました。
癒された部分もたくさんあったし、その過程を経たから、今の私があり、IFSにたどり着いたと思っています。
でも、本当に深い部分では、バイパスしていたのです。
本当に傷ついていた部分は避けて見ないようにし、回避できていたのです。
スピリチュアル・バイパスは、なぜ起こるのでしょうか?
人はなぜ、癒されることを望みながら、傷ついた部分を回避するのでしょうか?
これは、IFSのレンズを通して見ると、よくわかります。
IFSでは、私たちの心は、たくさんの副人格(パーツ)の集合体である、と考えています。
私の中に「たくさんの私(パーツ)」がいる、と言う考えです。
まず、私たちのパーツの一部は、とても繊細であり、脆弱で傷つきやすい、という事実があります。
私たちが、特に子どもの頃に、虐待や、ネグレクトや、いじめや、親との離別などの困難、いわゆる逆境にあうと、傷つきやすいパーツたちが、それによる痛みを抱えてしまいます。
とてつもない、恐怖や、恥や、悲しみ、怒り、憤り、孤独、虚しさ、無価値感、無力感、絶望、etc。
そんな圧倒的な痛みを、私たちの繊細なパーツたちが、背負ってしまうのです。
ですが、私たちは、その痛みを感じていたくありません。
恐怖、恥、無価値感、絶望などを、毎日感じながら生きていたい、と言う人はいるでしょうか?
いないと思います。
そのため、前述したように、私たちはそれらを感じないで済むような、様々な行動をします(行動化されていない場合もあります)。
IFS的に説明をすると、心の痛みから目を逸らせたい別のパーツたちが、痛みを抱えたパーツたちを「追放する」ということをするわけです。
恐怖や恥などの感覚を感じているパーツが表に出てこないように、まるで意識の地下牢のようなところに追いやるのです。
そのようなパーツがいつも活性化していて、その感情に圧倒されていたら、生きていけないからです。
それらのパーツが追放されていれば(私たちの顕在意識にのぼってこないでいれば)、私たちはそれらの感情を感じずに済み、圧倒されることなく、日常生活を生きていくことができます。
生きるために、傷ついたパーツを「ないものにする」わけです。
これは、逆境を生き抜くための、素晴らしい方法です。
IFSでは、痛みを抱えているがために追放されているこれらのパーツたちのことを「エグザイル(追放者)」と呼び、それらを追放し、日常生活を滞りなく送らせる役割をしているパーツたちのことを「プロテクター(保護者)」と呼びます。
私たちの心の仕組みは、このようになっているのです。
私たちは、エグザイルが持っているトラウマ的な感情や記憶のことは、本当に、見事なまでに、覚えていません(*記憶はあるけれども、感情だけ思い出せないこともあります)。
それは、素晴らしく有能なプロテクターたちが、エグザイルたちを追放してくれているからです。
そして彼らは、多くの場合、大人になっても、その経験から何十年経ったとしても、彼らを追放し続けています。
なぜなら、その痛みを思い出すことは、本当に、本当に、つらいことだからです(*または、大人になった今は実際にはそれほどつらいことではないのに、つらいと信じているだけの場合もあります)。
これらのプロテクターパーツたちは、本当に有能で、エグザイルの痛みをトリガーするものがないか、常に私たちの環境をモニターし、警戒しています。
そして、エグザイルの痛みをトリガーしそうなものは、なんであれ巧妙に避け、または他に気を逸らせそうな何かを見つけて、エグザイルが活性化しないようにしているのです。
一方、エグザイルは、いつまでも追放されたままで良いのかというと、そうではありません。
彼らは、自分の傷を癒してほしいし、話を聞いてほしいし、ケアされることを切望しています。
彼らは、必死で救いを求めています。私たちの耳に届かないところで、助けて欲しい、と叫んでいるのです。
癒やされることを切望して表に出てきたいエグザイルと、エグザイルを追放したままにしておきたいプロテクター。
この相容れない双方の要求を、なんとか叶えるための妥協案であり折衷案の一つが(実際は叶っていないのですが)、「いわゆる」スピリチュアルな活動を行うことである、と私は考えています。
なぜなら、小児期逆境を体験した人では、プロテクター自身も傷ついていることが多いので、プロテクター自身も癒しを求めているし、状況をなんとかしたいと思っています。
一般的な瞑想などもそうですが、いわゆるスピリチュアルなメソッドは、私たちを(一時的に)とても気持ちの良いところに連れて行ってくれるし、ある部分では癒されるし、何らかの形で、進歩している、成長している、と感じさせてくれます。
神であれ天使であれ、なんであれ、高次の存在の慈愛に癒され、救われた、と感じたことのある方は少なくないでしょう。
それを否定したいわけでは全くなくて、そういうことは実際にある、と私は信じています。
でも、本当に痛いところ、本当に傷ついたところは、バイパスしてしまうのです。
見ないで済んでしまうのです。
エグザイルを表に出したくはないけれども、癒されたい(癒されたと感じたい)プロテクターが、それで満足できてしまうのです。
私はかつて、聖母マリアとマグダラのマリアのエネルギーを使うヒーリングを主宰していたことがあります。
実際そのようなヒーリングエネルギーはあると思っていますし、素晴らしいものだと思っていますし、大好きですが、今は行っていません。
なぜなら、それはエグザイルを迂回することができていたのだ、ということがわかったからです。
深いトラウマ(エグザイル)は、ただヒーリングしただけでは癒されません。
プロテクターが追放した状態では、ヒーリングは彼らに届かないのです。
私たちが、エグザイルを追放せずに認識して、受け入れて、初めて、彼らを癒すことができます。
(*神経科学的に別の言い方をすると、右脳のトラウマ的な潜在記憶を、左脳によっても認識できる顕在的な記憶にして、全体に統合する、ということです)
それは、一般的なヒーリングと呼ばれるものでは起こらない(起こりにくい)、と私は思っています。
(これはキネシオロジーも同じだと思っています)
そんなわけで、ヒーリングもエネルギーワークもキネシオロジーも、大好きですが、やめました。手放しました。
バイパスしたくないからです。
本当に深い心の傷まで、癒したいからです。
私は、傷ついた部分をバイパスするのではなく、彼らを歓迎して癒すことが、本当の癒しだと信じています。
IFSでは、まずプロテクターと仲良くなり、エグザイルを癒す許可を得て、それからエグザイルを癒すことを目的としています。
(トラウマセラピーは、そもそもバイパスさせないようにしてトラウマを扱っていく手法だからこそ、トラウマセラピーなのです)
だから、IFSをはじめとするトラウマセラピーを学び、実践するようになったのです。
そもそも私は、身体の病気の根本治療を追求して、ここまで来ました。
身体的な病気に関して、私たちの心が及ぼす影響を、とても重要視しています。
病気には多数の要因が関与していますが、とても重要な要因の一つが子どもの頃のトラウマである、というのは、科学的に証明された事実です。
「病気はメッセージ」という言葉を聞いたことがありませんか?
トラウマを負ったパーツは、私たちに話を聞いて欲しくて、いろんな手段でメッセージを送ってきます。
でも私たちが(私たちのプロテクターが)、彼らのメッセージに全く耳を傾けなかったら、どうなるでしょう?
何をやっても効果がなければ、彼らは極端な手段に出るしかなくなります。
そう、その一つが症状や、病気です。
ご病気をお持ちの方のプロテクターは、ことさらに、有能です。凄まじく、強力です。
素晴らしく有能である彼らのエグザイルの追放し具合は、相当なものです。
プロテクターが彼らを追放すればするほど、症状を起こしているパーツは躍起になり、症状は悪化します。
病気をお持ちの方は、(もちろん、もっともなことですが)自分の身体を責めたり、嫌ったり、恥じたりしがちです。
でも、私たちの身体(パーツ)は、馬鹿じゃないです。
むしろ、本当に賢いです。
それしか方法がないから、やらざるを得ない理由があるから、やっているのです。
その声を、聴くべきなのです。
だから、私は、声を大にして言いたいのです。
ヒーリングしてるのに、スピリチュアルな世界を探究してるのに、
現実が変わらないなら。
症状があるなら。
重い病気が見つかったなら。
それは、バイパスしているから、かもしれないのです。
あなたがあなたの本当に傷ついた部分を、そうとは気づかないまま、追放しているから、かもしれないのです。
私は、それを、知って欲しいです。
自分の内側を、もうすでにたくさん見ている、という場合もあるとは思いますが、もっともっと、よく見て欲しいです。
もちろん、バイパスしたくなるような深いトラウマを癒すことは、簡単なことではないのも確かです。
本当に傷ついた部分を見るくらいなら、それを封印したまま、病気のままでいたり、(文字通り)死んだ方がましだ、と考えるプロテクターもいるでしょう。
プロテクター自体は、ただ彼らの仕事を一生懸命やっているだけだ、というのも知っていますから、スピリチュアル・バイパスが起きていることを、単純に非難したいわけではありません。
でも、癒す道があるのにそれを知らずにいて、彼らを追いやったままでいるのは、本当に残念なことだ、と私は思います。
だからまずは、そういうことがあるということを知って欲しいし、もっと深い癒しがあるのだ、ということを知って欲しいです。
IFSではそれができるのです。
(*全ての病気にパーツが関係しているわけではなく、関係していない病気ももちろんあります)
(*病気が治ることを保証するという意味ではありません)
IFSは、そういう意味で、本当に強力なツールです。
とても受容的で優しいのですが、根気と忍耐がいりますし、ある意味、容赦なく自分の傷と向き合うことになります。
でもそこを超えると、本当に超越した、でも同時に地に足がついていて、人間味に溢れた、ある地平のようなところに到達します(簡単ではないですが!)。
深いトラウマを抱えた人ほど、IFSを知って欲しい、と思います。
最後に、IFSの創始者であるリチャード・シュワルツ博士の言葉を引用します。
「慈悲(コンパッション)とは、排除するのではなく、苦しんでいる存在のところへ行って、彼らを抱きしめ、愛し、癒すのを助けることです」
この世の全てのパーツが、苦しみから解放されることを祈りながら。
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