浜田義之

酒と悟り 第四拾九話 白いトンネル

2021/4/ 2配信


皆様


 


いらっしゃいませ、マスターの浜田です。



今週わたしは、5日間の予定で田舎暮らしをしています。



満開の桜が咲く山々に囲まれ、
近くの川からは「かじか」の
美しくて可愛らしい鳴き声が聴こえてきます。



そして夜は鹿の鳴き声が聴こえてきます。



夜外に出てみると、小鹿が目の前で
耳をピンと立てて立っているのに遭遇してビックリ!



わたしもビックリしましたが、小鹿もビックリして
キュウ!と鳴き声をあげて逃げていきました(笑)。



さて、ここに来てから毎晩、不思議な夢を見ます。



5年前、ジャングルの部族を訪ねたとき、
彼らは夜見る夢には重要な意味があると言っていました。


 


今夜のお話も、夢のお話です。


 


そして今思えば、あれは重要な夢だったような気がします。


 


では今夜のお話をどうぞ。


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   これまでのあらすじ



男はバーのカウンターで不思議な紳士と出会ったことがきっかけで、
本当の自分へと還る目覚めの旅がはじまりました。



座禅修行で人生の師となる老師と出会い、
男は自己の内面に深い神聖な静寂を見つけます。



そして座禅修行で素晴らしい体験をした男は、
今度は10日間山に籠っての瞑想行に参加します。



10日間も山に籠って非日常って面白そう!



慣れない環境、慣れない瞑想法にはじめ男は
雑念や足腰の痛みに翻弄されはしましたが、
3日もすると穏やかな深い瞑想が出来るようになりました。



ところが3日目の午後からはじまった本格的な瞑想に
男は面食らいます。



かつて経験したことのない集中力を要求され、
男はフラフラになってしまったのでした。



そしてその夜、男は...。



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   白いトンネル
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気がつくと男は不思議な場所にいた。



気がついたときにはそこにいたのだが、
いつの間にかそこにいたので、
そこにいることを不思議に思わなかった。


 


気がついたときにはもう、そこにいたのだ。


 


そこは真っ白なトンネルの中だった。


 


その真っ白なトンネルには不思議なことに、
電灯のような明かりは何もなかった。


 


明りは何もないのに暗くはなかった。


 


白く明るかった。


 


そこはただ白く、明かりもなにもなく、
あまりにも殺風景だった。


 


トンネルの左右には何か所も側道のトンネルがあった。


 


だがそれらトンネルもすべて同じ光景だった。


 


ただなにもない殺風景な白いトンネルがあるだけだった。


 


何処も全く同じ景色だった。


 


何処を通っても、何処まで行っても、
ただ殺風景な真っ白なトンネルだけが延々と続いていた。


 


なにもない真っ白な空間。


 


なにもない殺風景な空間だけが、延々と続いていた。


 


前を向いても、後ろを振り返っても、
右に曲がっても、左に行っても風景は変わらなかった。


 


ただ真っ白で寒々とした、殺風景な光景だけが延々と続いていた。


 


最初このトンネルの中で気がついたとき、
男は何も感じていなかった。


 


ふいにトンネルの中で気がついたとき、
それを不思議とも何とも思わなかった。


 


ただ気がついたときそこにいた。


 


男は歩き出した。


 


はじめ、なんとなく歩き出した。


 


だがそのうち男は、出口を求めるようになった。


 


あまりにも寒々とした、殺風景な、
何処までもなんの変化も代り映えもない風景から逃れたくなり、
気がついたときには出口を求めていた。


 


だが行けども行けども、風景は何も変わらなかった。


 


ただなにもない真っ白なトンネルだけが、延々と続いているだけだった。


 


男は歩き続けた。


 


出口を求めて。


 


だが何処まで歩いても、何処を曲がっても、風景は全く同じだった。


 


ただなにもない真っ白なトンネルが、
自分以外誰もいない、生気ない、殺風景な光景が
ただ延々と続いているだけだった。


 


やがて男は怖くなってきた。


 


出口のない無限の迷路の中にいることに気づきはじめた。


 


そうしてここから永遠に出られないことを感じ始めて、
男は怖くなった。


 


男はどうやってここにやってきたか思い出せなかった。


 


気がついたときにはここにいたからだ。


 


出口がない。


 


入り口さえ見つけられない。


 


何処から来て、どうやってここに来たのかも思い出せなかった。


 


ここから出られない。


 


男はどんどん不安になった。


 


しかも誰もいない。
誰一人いない。


 


自分ただ一人しかいない。


 


男はどうしようもない孤独を感じ始めた。


 


自分以外誰もいない、なにもない無限の空間に自分ただ一人だけ。


 


男は恐怖を感じた。


 


なにもない無限の空間にただ一人。


 


出口もなく、永遠にここから出られないのだと思うと、
男はとてつもない空虚感を感じ、絶望が訪れた。


 


恐怖と深い悲しみが、絶望という姿で男の内をいっぱいにした。


 


果てしない空虚感が男を満たした。


 


空虚さが満たすなんて!


 


そんな矛盾をなぜ感じなければいけないのか?


 


なぜこんなことになってしまったのか?


 


自分はいったいなにをしたというのか?


 


自分はいったいなにをしたのだろうか?


 


なぜこんなことに?


 


男はやりばのない、
どうしようもない虚無感で胸がいっぱいだった。


 


なんでこんなことに....?


 


その瞬間だった。


 


男はふいに思い出した。


 


知っている....この感じ。


 


幼い時、ある日ふいにこの感覚に襲われたことを。


 


あれは夢だったのか?


 


父も母もいない、自分以外誰もいない。


 


出口のない、なにもない無限の空間に、
永遠にそこから出られない空間に、
自分がいることに気がついて、どうしようもなく怖くなった記憶。


 


そうだ、自分は知っている。


 


幼い頃、この恐怖を味わった。


 


そう思ったとき、目が覚めた。


 


目が覚めるとそこには、天井があった。


 


まだ夜更けだった。


 


男はまだ体に恐怖の感覚を感じていた。


 


わたしは知っている、あの感覚を。


 


なにがきっかけだったのか...幼いある日感じたあの感覚。


 


男は夢の中でそれを思い出した。


 


キュウ キュウ!


 


夜の山々に野鹿の鳴き声が響き渡った。


 



怖い夢から目が覚めたのに、
男にはひとつも安堵の感覚は湧いてこなかった。


 


わたしはあの感覚を知っている。


 


幼いある日、あれを自分は知ったのだ。


 


自分はずっと出口を求めていたのかもしれない。


 


どうやって入り込んだのかもわからない、
いつの間にかそこにいた迷路の出口を。


 


キュウ キュウ!


 


野鹿の鳴き声が再び夜の山々に響き渡った。


 


男はただ、天井を見つめていた。


 



つづく


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        あとがき


今日のお話に出てくる白いトンネルは、
わたしが幼少のころ、夢の中で観たトンネルです。


長い長い間、記憶の底に封印されていた記憶です。


あまりに怖かったので、顕在意識は本能的に、
自我を守るために、この夢の記憶を封印したのかもしれません。


が、あるときふいに、この記憶が蘇ってきました。


乗り越える準備ができたとき、記憶は蘇ると言われています。


わたしは40歳を越えたころ、
いつかの封印された記憶が蘇ってきました。


この白いトンネルの夢の、そのひとつだったのでしょう。


幼い頃のこの体験が、もしかしたら悟りたい、
解脱したいという欲求に繋がり、
座禅に深い興味を抱かせたのかもしれません。


乗り越えることができるようになったとき、
封印された記憶は蘇るそうです。


あなたの封印されていた記憶は、どんな記憶でしょう。


もしかつて封印した記憶を思い出したとしたら、
生まれ変わる準備が整ったのかもしれませんね。


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