酒と悟り 第四拾八話 無意識の輪廻
皆様
いらっしゃいませ、マスターの浜田です。
今日のお話は、わたしが実際に体験したことですが、
実はとても大切な【変容】が起こっているときでした。
勿論、その最中は、まさかそんなことが、
自分の体験の背後で起こっているとは見当もつきませんでした。
では今日のお話をお楽しみください。
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これまでのあらすじ
男はバーのカウンターで不思議な紳士と出会ったことがきっかけで、
本当の自分へと還る目覚めの旅がはじまりました。
座禅修行で人生の師となる老師と出会い、
男は自己の内面に深い神聖な静寂を見つけます。
そして座禅修行で素晴らしい体験をした男は、
今度は10日間山に籠っての瞑想行に参加します。
10日間も山に籠って非日常って面白そう!
慣れない環境、慣れない瞑想法にはじめ男は
雑念や足腰の痛みに翻弄されはしましたが、
3日もすると穏やかな深い瞑想が出来るようになりました。
ところが4日目から本格的な瞑想がはじまると、
めんどくさい、続けたくない、帰りたいという思いが
男の内面を支配し始めました。
そうして目が冴え、男は一睡もできないまま、
翌日の瞑想修行をはじめなければなりませんでした。
そんな中、男の内に、ある誘惑が芽生えだしたのでした。
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無意識の輪廻
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結局昨夜はほとんど眠れなかった。
多分ほとんど一睡もできなかったと思う。
こんなまま一日瞑想できるとは、男には到底思えなかった。
さて、まったく不思議なものだ。
朝になって、ホールに集まって瞑想する時間になると、
男に横になってそのまま寝ていたいという欲求が出てきた。
昨夜はどんなに眠りたくても眠れなかったのに、
朝になって、さあ起きなければとなると急に、
横になっていたい、眠りたい、眠いとなるのだ。
昨夜はあれだけ眠りたくても眠れなかったのに..。
まったく!天邪鬼のようだ。
それでも男は朝5時前、時間になったらホールに向かった。
そうして皆と一緒に瞑想をはじめた。
だが。
サボりたい。
そんな欲求がふつふつと湧いてきた。
寝たい、眠りたい、起きていたくない。
横になりたい....。
そんな欲求がふつふつと湧き上がり、
男の中で広がり、大きくなるのに時間はかからなかった。
それに対して「いや、やると決めたのだからやらなくちゃ」とか、
「サボっちゃダメ」「逃げちゃダメ」という思いも湧いては来たのだが、
湧いてきた時点で、もう既にその思いは劣勢だった。
寝たい、横になりたいという欲求の前では、
「ちゃんとしなくちゃ」という思いはあまりにもその力は小さかった。
「ちゃんとやらなくちゃ」「休むのは後だ」という思いは、
寒天が筒から押し出されるように、「寝たい」「横になりたい」
という欲求にいとも簡単に押し切られてしまった。
早朝の瞑想がはじまって30分くらいしたころだろうか。
男は静かに立ち上がると、自分の部屋へと戻った。
早朝の瞑想は、
原則としてはホールでみんなと一緒に座る時間だったが、
必ずしもホールでやらなければならない時間ではなく、
自室で瞑想することも許されていた。
なので男は自室で瞑想するようなそぶりを見せながら、
静かに自分の部屋に戻った。
そうして部屋に戻ると、布団へと倒れこんだ。
朝の時間だけだもの。
いいよね。
そう自分に言い聞かせ、とても小さな声になっていた
「ちゃんとしなくちゃ」という内面の声に言い聞かせ、
内面の葛藤をみないようにして、そのまま眠りへと落ちていった。
気持ちよかった。
とても解放される気分だった。
嫌なことから逃げる。
面倒なことから逃げる。
いつもなら葛藤になるこのことから、眠ることで逃避した。
そうして男は、朝食の合図の、
盤木を叩く小づちの音が聴こえるまで、
ひとときの安楽の中へと溶けていった。
このひととき、男は幸せな気分を味わっていた。
嫌なことから、しんどいことから一時的に解放された、
その一時的な自由さに幸せを感じていた。
しんどいことから、面倒くさいことから一時的に逃げて、
解放された気分を味わう....。
これが男の潜在的なパターンだった。
このパターンが、いつの間にかいつもの現実を、
同じループから抜け出させない男にとっての輪廻を、
繰り返し続ける【無意識の選択】だった。
だが、この時の男にはまだ、
このことに気づくことはできなかった。
つづく
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