濱田預士之
濱田預士之

物語とメタファーと白雪姫

2021/3/ 2配信


皆様


 


いらっしゃいませ、マスターの浜田です。



 


映画や小説、物語、神話には、
不思議な魔法がかかっています。


 


子供の頃に読んだ「あれはこういう話なんだ」
「あの話はこんなことを伝えているんだ」


 


そんなふうにもう、
過去に意味が決まっていた物語も、
あるとき魔法が解け、わたしたちに魔法のような知恵を示し、
道を照らしだしてくれる、全く新しい物語として姿を現すことがあります。


 


今夜のお話は、わたしたちが子供の頃から知っているお話が
新しく輝きだす不思議なお話です。


 


あの不思議なバーで、あなたも不思議な体験をしてみませんか。


 


さぁ、あなたもカウンターのお隣の席にどうぞ。


 


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   物語とメタファーと白雪姫
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このバーには不思議な紳士が訪れることがある。



今夜はあの紳士に出会えるかもしれない



そんな予感めいたものを、今夜の男は感じていた。


 


「物語ってね、メタファーなんですよね、
物語やそこに登場する登場人物からなにを読み解くのか、
推理小説を読み解くみたいで何処かワクワクするんですよ」


 


男はマスターにそう言った。


 


「わたしも好きですよ、映画のメタファーから、
深遠なもの見つけたときには、
ワクワクして人に見つけたものを話したくなりますよね」


 


マスターはそう応えた。


 


「次も何かお飲みになりますか?」


 


男は少し考えた。


 



そして
「ドランブイをお任せでお願いします」と答えた。


 


 


「かしこまりました」


 



そう言うとマスターは酒の用意をはじめた。


 



男は宙を眺めながら、しばし空想に耽った。


 



童話もそう。


 


メタファーに違いない。


 


例えば..白雪姫のメタファーってなんだろう?


 


男はそんなことを考えた。


 


 


「白雪姫は【純粋さ】の比喩だったのかもしれませんね」


 



男は声のする方を向いた。


 



あの紳士だ!


 



そこにはヨウジヤマモトを上品に着こなした、
清潔感と優し気な空気を漂わした初老の紳士が座っていた。


 


 


「またお会いできましたね」


 



紳士に会えた男は嬉しくてそう言った。


 



「こんばんは」


 



紳士は優しい笑顔で男に挨拶した。


 



男も笑顔で会釈した。


 



紳士はいつもの...親しみある、
でも不思議な空気感を漂わせていた。


 


 


「白雪姫は【純粋さ】の比喩(メタファー)だと、
先ほどおっしゃいましたね」


 



男は紳士の言葉について問いかけた。


 



「ええ、純粋さ、純真さ、子供のような無邪気なこころ
そして好奇心....白雪姫の物語の彼女は、
そのようなもののメタファーではないかとわたしは考えます」


 



紳士は応えた。


 


 


「では白雪姫に毒リンゴを食べさせた継母はなんなのでしょう?」


 


 


男のこの問いに、紳士はしばしグラスを回しながら、
琥珀色のウィスキーが揺らるさまを眺めた。


 


 


そして「自我のメタファーなのではないでしょうか」と応えた。


 


 


「自我、エゴのメタファー....ということはつまり、
継母が白雪姫に毒リンゴを食べさせたのは、


人が生まれ持って持つ純粋なこころ、好奇心を恐れ、
封印しようとするエゴの働きということでしょうか」


 



紳士はニッコリした。


 



男は続けた。


 



「生まれ持っての純粋なこころ、
純粋な好奇心に従って自由に生きること、


だけどその自由さは、そのようには生きられない
そんなふうに生きることは危険なことだと信じ込んできたエゴには
怖いものなのかもしれません



社会から世界から疎外される


そう信じるエゴにとっては恐ろしいものかもしれませんね」


 


 


と男は応えた。


 


 


「純粋な好奇心に従い、自由に生きることで、
生まれ持ったその人特有の性質は、
才能として開花していくものだとわたしは考えます」


 



紳士は琥珀色の液体が揺れるのを楽しみながら続けた。


 



「種が栄養を、水分を、太陽の光を
あるがままに受け取って、風雨に耐える強さを得て、
あらゆる障害から、自らを守り抜いて、
そして見事な花を咲かせる」


「その見事な花の美しさと香りは、人々を感動させ、
風に乗り、花粉が運ばれるように、その人の魂の悦びは広がっていく」


 



「そして花はあちこちで花開く?」


 



紳士の言葉に男が応える。


 



「ええ」


 



紳士は嬉しそうに頷いた。


 


 


「継母は....わたしたちのエゴは、
なぜ生まれ持った純粋さが花開くことを恐れるのでしょう?」


 


 


男のこの言葉に紳士はふと男の方を向いた。


そしてニッコリとしながらこう言った。


 



「あなたは何故だと思われますか?」


 


 


「わたしは....」


 



男は少し考えてから口を開いた。


 



「エゴは...自我は....わたしたちが自分だと思い込んでいるものは、
自らが信じてきた正義、


つまり「あらゆる〇〇であるべき」という観念が...
壊れるのを恐れるのかもしれません...


自分だと信じ込んできたものが壊れるのが怖くて」


 



男はそう言ってからハッとした。


 



そうして自分が空のグラスを握りしめていたことに気がついた。


 



「白雪姫を目覚めさせた王子は、
白雪姫自身だったのかもしれませんね」


 



紳士のこの言葉にハッとして、男は思わず顔を上げた。


 



「王子は勇気、勇敢、誠実、高貴な志、目的、
それら(誰の中にもあるはずの)
高潔な精神のメタファーなのではないでしょうか」


 



紳士はそう言った。


 



白雪姫は王子の口づけで目覚めた。


 



純粋な好奇心、汚れ泣き純粋なこころが、
高潔で勇敢な精神に目覚めた。


 



そして白雪姫でも王子でもない、第三の存在が、
純粋な好奇心、純粋なこころと、
高潔な魂を持った、勇敢でゆるぎない新しい存在が、
目覚め、生まれたのかもしれない。


 



そう男は思った。


 



男は自分の内の深いところで、なにかが目を覚ますのを感じた。


 



そして興奮とは違う、静かで冷静な
だけど力強いワクワクのようなものが目を覚ますのを感じた。


 



眠っていた魂に、それは灯が灯ったようだった


 



「いつの時代もそうですが...」


 



男は空のグラスを手にしながら話し始めた。


 



「物語は誤解されてきたとわたしは思います」


 



男が幼い頃、白雪姫を初めて読んだとき、
男はこの物語から、正しいものを守ること、
正しいことを行うこと、不正は許させるべきでないこと、
不正を行ったものは報いを受けるべきだということを学び取った


 


優しさや思いやりや、人を助けることの大切さも学び取った。


 


幼かった男は、物語から素晴らしいものと同時に、
「であるべき」という観念も受け取り、芽生えさせた。


 



そうしてその観念はいつの間にか男の価値観、
判断の基準になっていった。


 



それがひとつの物語


 


そして物語の読み取り方から生まれた、観念だった。


 



だが男の好奇心は今、物語のメタファーに関心を持つようになった。


 


物語のメタファーが伝えようとしていることの真意に
好奇心を抱くようになった。


 


そうして過去にもう意味が決まっていたはずの物語が、
また生き生きと違う物語として輝きだした。


 



男の人生を、そしてこれから歩む道を照らしだした。


 


 


「白雪姫の物語は、白雪姫や継母、
王子の物語だと思っていました」


 



男はそう言うと、またグラスを眺めた。


 



「物語は、わたし自身のことだったのです」


「わたしを目覚めさせ、わたしの眠っていた心を、魂を目覚めさせ、
わたしの人生を導く、地図として、道具として、
新しく意味を持って輝きだしました」


 


 


男はそうポツリと言った。


 



口から流れるように、そんな言葉が流れ出してきた。


 



紳士は男に向かってニッコリと笑った。


 


 


「お待たせしました!」


 



マスターの声に男はハッと、グラスを眺めていた顔をあげた。


 


「ドランブイを使ったカクテル、
マジックトレースをお作りしました」


 



「マジックトレース?」


 



「ええ、マジックトレースは満足の酒とも呼ばれています」


 



「マジックトレースってどういう意味なんですか?」


 



男がカクテルの名前の由来を不思議に思って聞くと、
マスターはこう答えた。


 



「何処がマジックなのかわからない、
そこがマジックなのかもしれませんね」


 



マスターはニッコリしながら答えた。


 


 


何処がマジックなのかわからない....


 



物語も同じだ


 



物語は、その真意を知りたいと思う者に、
受け入れる準備をした者に、その魔法を魅せてくれるのだ。


 



マジック...本当に物語はマジックだなと男は思った。


 



紳士がいた席に目をやると、
空のグラスとまだ煙の残った葉巻が残されていた。


 



男はまた嬉しくなり、そっとほくそ笑んだ。


 


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     あとがき


今朝、寝起きでうつらうつらしていたら、
今日のお話が浮かんできました。



そうしてふいに、
自分の人生を物語に照らし合わせてみたくなりました。



幼い頃...10代..20代...30代....
40代....そして50代の今。



わたしは自分の人生が物語と同じような
冒険になってることに気がついて驚きました。



物語と自分の人生はちがう。



自分の人生は物語のように華やかじゃないし、
物語のようにさして面白くもない...。



そんなふうに今までずっと自分の人生をみてきました。



だけど、物語がわたしたちの人生そのものを
照らしていることに気がついたとき、
誰の人生も実は冒険なのだと気がつきました。



気がついたとき、とても嬉しくなりました。



今夜のお話は、今日気づいた悦びを、
ほんのちょっとでも伝えたくて描きました。



あなたの魂にほんの少し、
ポッと明かりが灯ったならうれしく思います。


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    マスターからお知らせ


友人の勧めでコーチングセッションをはじめることにしました。


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